芍薬

芍薬に関する園芸植物としての記録が中国では紀元前5世紀にすでに見られ、世界最古の鑑賞用植物とされる。薬用品種の育種も相当古くから行なわれたと考えられ、とくにシャクヤクでは根が太く、有効成分のペオニフロリンを多量に含む品種が中国でも日本でも生薬生産のために栽培されてきた。薬用部分である根を太らせるためには、花が咲かないようにつぼみを摘みとる必要があるが、長い栽培の歴史の間に一株に一つ咲くか咲かないか、それも直径6cmほどの小さな花しかつけないように仕立てられてしまっている。薬用種は白い花のものが多く、ピンク色あるいは、花弁の縁どりだけが赤いものなどがある。

Episodical Pharmacognosy in Kampo Medicine シャクヤクの薬用種

シャクヤクの薬用種

芍薬の収穫(名寄にて)

芍薬の収穫(名寄にて)

左から白芍、真芍、赤芍

左から白芍、真芍、赤芍

花は初花、根はくすり

花を切り花に、根を薬用にという欲張った考えが、しばらく続いた。お金儲けのためにはうまい考えだったのだが、長い年代をかけて育種されてきた薬用種が園芸種と交雑してしまって、ペオニフロリン含量で高低差百倍ものばらつきのある生薬が市場に出回る結果になってしまった。ブレンドすることによって、ばらつきだけは防げるが好ましいことではない。花卉園芸は多様性に価値があり、医薬品には均質性が求められるのであって考えが根本的に間違っていた。
 現在、全国の薬科大学の薬用植物園の共同事業で、一本一本成分分析をしながら優良株の選抜をするという、気の遠くなるような努力が行なわれている。成分もたっぷりと均質に含み、摘花不要、根も太いという品種の苗がバイテクでどんどん提供できるというのが夢である。その上で花が美しければなおよい。

赤、白、真

野生のシャクヤクPaeonia lactiflora(ボタン科)は中国の東北部が原産地とされ、内蒙古、黒竜江省などでは野生品が採取されている。黒竜江省東南部で集められる野生の芍薬は根が細いので皮付きのまま湯通しして乾燥する。断面で見ても内部まで赤紫の色が染み込んでいるので「赤芍」と呼んでいる。江蘇省などで栽培される根の太いものは皮を去り、陽乾して多分その上に磨きをかけているらしく、白く粉をふいている。これが「白芍」である。
ハルピンの森林植物園で、これが赤芍の原植物ですよといって示されたものは、日本のヤマシャクヤクによく似た葉をつけていた。これが別種の赤芍の基原であるP.obovata(草芍薬)であろう。本草綱目に「根の赤白は花の色にしたがう」という記載があるが、現在の事実とは一致しない。
 「川赤芍」は四川省に野生するP.veitchii(川赤芍)の根で、これも産出は結構多い。四川のものは皮去り赤芍と皮付き赤芍があるので話はややこしい。
日本産のものは中国の栽培種と同じであって、奈良県南部の山間部の水はけのよい斜面で栽培されてきたが、火山灰地の北海道でもよく育ち、現在大規模に栽培されている。名寄の北海道生薬公社では、地上部が枯れた後の九月に掘り上げて、芽のついた新しい根を植え付けのために残して太い根を切り取っている。すぐに機械で洗って、水をかけながら砂利とともに撹拌摩擦して皮をうすくはがし、蒸して乾燥する。乾燥したものは淡紫褐色で、赤芍でも白芍でもなく「真芍」と呼んでいる。加工方法を見ても形状をみてもその中間といえよう。

【薬効と漢方処方】

芍薬の配合される漢方薬は多く、一般用漢方薬の中では66方もあり、鎮痛鎮痙薬、婦人病薬あるいは、その両方を兼ねるものにめだっている。ペオニフロリンに鎮静、鎮痛、抗炎症、体温下降などの作用が知られ、安息香酸が主体と考えられる抗菌作用と合わせて、芍薬の主な用途を一応説明していが、いずれも痙攣する痛みに用いながら、白芍を補血養陰薬とし、赤芍を活血去薬とする区別は成分、薬理ともにまだちゃんと説明されてはいない。
日本では真芍しかなかったので、どの薬方にどちらを使うかということは問題にならなかったが、漢方も国際化の時代、中国の白芍、赤芍が輸入されているのではっきりさせる必要があろう。傷寒論、金匱要略には区別されていないが、後の書物によれば、四逆散、芍薬甘草湯、当帰芍薬散、五積散、加味逍遥散、四物湯、桂枝湯などは白芍、葛根湯は赤芍といった記載がある。この解析は困難である。

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