黄連

中国の黄連に類似する植物は、日本にも野生のものが6種類もあり、分布範囲も広いので、古くから日本の民間薬としても使われていたと考える方が自然である。

Episodical Pharmacognosy in Kampo Medicine セリバオウレンの花
セリバオウレンの花
黄連の主なもの。左から雅連、味連、丹波黄連
黄連の主なもの。左から雅連、味連、丹波黄連
黄連のひげ根を焼いて、むしろとワラジで摩擦して磨きをかける古典的な加工法
黄連のひげ根を焼いて、むしろとワラジで摩擦して磨きをかける古典的な加工法
峨眉山の黄連

中国の四川省、成都から南に100 キロ余り、昆明に向かう成昆鉄道の車窓からも峨眉山(3092メートル)の美しい姿を望むことができる。純白の四姑娘山を後ろにひかえ、東面に大岸壁を見せる山容は、郭沫若の筆になる登山口の看板通り「天下名山」と呼ばれるにふさわしい。山西省の五台山、浙江省の天台山とあわせて三大霊場といわれ、唐の孫思貎が百一歳で死ぬまでをここで過ごし、千金要方、千金翼方の2書を著わしたことでも有名である。

この山は、麓の楽山にある世界最大の大仏とともに観光地としてまた、薬草の宝庫として著名な山である。特に黄連は特産の「峨眉野連」をはじめ、栽培の「味連」と「雅連」も品質が良く、この3つを合わせて「川連」という。

峨眉野連

鳳尾連ともいう。四川省西部から雲南省東部にかけて分布し、この山の名をつけていて、しかも最高級の黄連だと言われるので、さぞや峨眉山には沢山あるのだろうと思っていたのだが、採り尽くされてしまったのか、今では珍しい植物とされ、栽培もされておらず、野生品の採取がわずかにあるだけ、もはや一般的な市場性はない。登山口の門前市で、草医が軒に3〜4本吊していたのを見たのみである。形状は雅連に類似し、葉が長い。

味 連 Coptis chinensis

根茎の枝分かれが多く、鶏の脚の様な形なので、鶏爪黄連ともいう。分布も広く、栽培による産出も多いので、単に「黄連」とか「川連」という場合にも、これを指すことが多い。栽培は峨眉、楽山をはじめ、四川東部の石柱、南川、湖北の来鳳、陝西省南部などで盛んに行なわれている。峨眉山でも、冬に積雪のある、海抜1500メートルあたりの針葉樹林帯の緩やかな斜面で栽培されている。繁殖は種子繁殖で、太くて長い笹の茎を粗く編んだよしずのようなもので畑全体を 1.5メートル位の高さでおおい、半日陰にして育てている。日本の栽培方法と驚くほどよく似ている。どちらが真似をしたのでもなく、農民の知恵でそうなったのであろう。現地では、チベット族のチベット語・四川語・北京語・日本語の3段階の通訳を必要とし、話を聞くのがひと苦労であった。

味連は根茎の枝分かれのすき間に土砂を含むことが多く、日本薬局方に適合させるためには、ばらして掃除する必要があるため、写真にあるような束のままの生薬は輸入されていない。中国産の小型のものがこれである。品質は良い。

雅 連 Coptis deltoids

峨眉連、峨眉家連などの名があり、植物名は三角葉黄連という。地上部は他のオウレンと同程度の大きさだが、根茎は太く大型で、直径が日本の黄連の2倍程度にもなる。ななめ輪切りにした飲片では、長径が2センチにも達する。前の2つにくらべて少し品質は劣るが、有効成分のベルベリンは5%以上も含まれている。分布範囲はあまり広くなく、峨眉山や洪雅あたりで栽培されているものが、日本にも輸入されて来る。峨眉山では、針葉樹林が切れて草原帯に変わる海抜2000メートル前後の高原で栽培されている。笹を編んだよしずで日除けを作っているが、高さ1メートルほどでやや低い。三角葉黄連は果実を作ることは作るのだが、種子が稔らず、種子繁殖はできない。地上を長くのびるつるから発芽するので、株分けによって増殖をし、植え付けてから収穫まで5年間肥培する。

雲 連 Coptis teetoids

雲南省からチベット、また、ビルマ北部で栽培されているものがこれに当たり、根茎が細く長い。この他、薬用にされる黄連が中国にもう2種類、ネパールに1種類ある。

日本の黄連

キクバオウレン Coptis japonica

加賀黄連という名で知られた品質の良い黄連が、現在はほとんど出荷されず、まぼろしの黄連と化している。栽培の努力がされず、野生品の採取に頼っていたため競争に負けてしまったのであろうか。野生品は集める人がいなくなったためか、増加の傾向にあるようで、金沢の市内でも大量に群生しているところがある。栽培は困難ではなく、復活が待たれるところである。

セリバオウレン Coptis japonica var. dissecta

東北地方から鳥取県に至るまで広く分布していて、少しは日が入る杉林などにしばしば野生がある。兵庫県の「丹波黄連」や鳥取県の「因州黄連」などの栽培品が現在はハバをきかせている。細くて小さく、やや見劣りがするが品質が良いので、香港や台湾、韓国などで人気がある。今は、中国からの輸入が国内生産を上回っている。

成 分

黄連の主成分は鮮やかな黄色の水溶性のアルカロイド化合物、ベルベリンおよびその類似物質である。黄柏やメギの類にも含まれるが、黄連は含有量が多く、乾燥生薬の7%にも達することがある。コレラ菌、赤痢菌、腸チフス菌など消化器系の感染症に強い抗菌作用があり、筆者の経験では食中毒のサルモネラ菌にも有効であった。また、顕著な抗炎症作用や抗潰瘍があることもよく知られている。目薬にも利用されてきた歴史がある。漢方でいう病因の火とか熱は身体に発熱を起こす原因を指しており、これを細菌と解釈すると清熱瀉火解毒の意味が分かりやすくなる。黄連は身体を冷やすとよく言われるが、正常体温を低下させることはない。

循環系については、ベルベリンだけの作用ではないといわれるが明らかな血圧降下作用、脂質の改善、動脈硬化予防、さらに血小板凝集能抑制など総合して血液循環を改善する作用があり、高血圧、動脈硬化、高コレステロール症、脳梗塞、心梗塞、脳血管性痴呆症などへの利用が説明されている。

三黄瀉心湯は高血圧の治療によく応用され、黄連解毒湯は二日酔いから脳梗塞、痴呆まで応用範囲の広い薬で、黄連湯とともに食中毒、細菌性の下痢などにも応用できる。

黄連と黄芩の配合された薬方を瀉心湯といい、心下痞を目標として応用する。半夏瀉心湯、生姜瀉心湯、甘草瀉心湯などがある。葛根黄連黄湯、加味解毒湯も両者を含んでいる。

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