葛根

クズは英語でジャパニーズ・カズ・バイン、今、アメリカで森林の害草として毛嫌いされている。発端はこういうことらしい。
アメリカ東南部アパラチア山脈の南端、グレート・スモーキー山から西に下るリトル・テネシーの流域に1940年頃多数のダムや水力発電所が建設された。TVAと呼ばれる大総合開発計画である。このダムの堰堤の土砂くずれを防ぐために日本のクズが植えられた。太く長い繊維性の強固な根が地中深く入り、地上を這う蔓茎も強いので日本でも鉄道沿線に植えられている。ここを起点として、この毛むくじゃらの大型つる草は猛烈な繁殖を始め、高さ数十メートルに達する巨木の多い大森林の表面を被いつくし、まとわりついて、樹木を弱らせてしまうのである。今ではアメリカ全森林面積の半分以上が被害を受けているという。その嫌われようは尋常ではない。

Episodical Pharmacognosy in Kampo Medicine クズ、ノースカロライナ州にて

クズ、ノースカロライナ州にて

板葛根・上はデンプンの少ないもの・下はデンプンの多いもの

板葛根
上はデンプンの少ないもの
下はデンプンの多いもの

大和の国栖

クズという名は昔、大和の国栖(くず)の人が根から取ったでん粉を「国栖粉」と名づけて諸国に売り歩いたからだといい、今や吉野葛の名は、クズデンプンの一般名といった方が良い位である。クズのでん粉は結合力が強く、いったん固まるとふやけたり粘りついたりせず、丸薬などの結合剤として優れた性質があるのだが、今はくず湯、葛ひき、葛きりなど製菓用にほとんど使われる。
 基原植物のクズPueraria lobata(中)野葛(マメ科)は日本から、中国の南部にまで、青海、新疆、チベットを除く中国全土に分布している。中国のものをシナノクズP.lobata var.chinensisとして区別する説もあるが、薬用の面からはまったく同じとみなしてよい。中国には薬典にあるP. thomsonii甘葛藤のほか、P.edulis食用葛藤、P.omeiensis峨眉葛藤、P.phaseoloides三裂葉葛藤、P.peduncularis雲南葛藤の4種が使われているという。

粉葛と葛条

でん粉原料の葛根と薬用の葛根は同じ植物の同じ部分を使っているのだが、一見してかなり違うように見える。でん粉に富む葛根は粉葛と呼ばれ色も白っぽく繊維が少ない。角葛根という刻み生薬にするとサツマイモを干したもののようになる。逆に葛条と呼ぶでん粉の少ない葛根は黄土色で、太くて強い繊維が切り口にもじゃもじゃと生えている。根を縦に割って干した板葛根の状態であればこの区別は歴然としている。この差は日光とか栄養状態の違いから生じるようで、同じ場所のクズを掘っても、でん粉の多いもの少ないものといろいろある。
 有効成分はダイジン、ダイゼイン、プエラリンなどマメ科植物に多いイソフラボン化合物あるいはその配糖体と考えられる。でん粉の多いものにはイソフラボンも多く、繊維に富むものにはイソフラボンも少ない。その差は総フラボノイドとして1.7から12%にも及び、著しい変動を見せる。植物種の差ではP.thomsoniiはかなり落ちる。

ダイゼインには抗痙れん作用が認められ、フラボノイド混合物には脳および冠動脈に対し、血流量を増加させる作用がある。ダイゼインにはこの他、未成熟マウスの子宮重量を増加させる女性ホルモン様の作用も認められる。また、成分は不明だが抽出液に解熱作用さらに、血糖値を初め上昇、後に下降する作用なども認められている。

【薬効と漢方処方】

古典での葛根の薬効は解表退熱、生津止渇、止瀉とし、発熱して無汗、口渇、頭項強痛、麻疹不透、泄瀉下痢などに用いている。傷寒論の葛根湯は桂枝湯に葛根と麻黄が加わったものと考えられるのであるが、葛根湯の効能は葛根の薬能そのものである。
 葛根の配合される漢方薬方は多くはなく、葛根湯のほかには蓄膿、鼻炎の薬にする葛根湯加辛夷川、桂枝湯証で下痢のあるものに使う葛根黄連黄湯、このほか升麻葛根湯、葛根紅花湯などがあげられるにすぎない。これらに共通する目標の項背強痛をそのまま肩こりの薬と解釈してしまうきらいがあるが、項背とはうなじのことで、いわゆる肩こりにはあまり効かない。むしろ背骨にそった、肩胛骨周辺の筋肉、上腕、脇などに痙れん性の筋肉痛があらわれるような場合にはすぐれた効果を示す。
流感にかかり、腕枕で頭を支えてテレビを見ていたら、腕、首、胴にひきつるような痛みが走り、身動きできなくなったので葛根湯を服んだら、翌朝には治っていたという自分自身の経験がある。その日の講義で話したら、学生の親に同じ症状があり、子供の電話一本、葛根湯一服で流感を治したと神様扱いされてしまった。

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