呉茱萸

 江戸時代享保年間に日本に導入されたゴシュユ Evodia rutaecarpa を、日本ではいつの頃からかニセゴシュユと呼んでいた。日本には入っていない Evodia officinalis (= E.rutaecarpa var. officinalis)をホンゴシュユと言い、呉茱萸の基原植物はこちらが本物と信じられてきたようである。

 現代の中薬大辞典や中華本草では上のニセゴシュユが正条品、ホンゴシュユは中国名で石虎と言って同様に使えるものとしている。

[呉茱萸]

呉茱萸(中国・貴州産)

呉茱萸(中国・貴州産)。

直径2〜5mm。

ゴシュユの果実

ゴシュユ Evodia rutaecarpa の果実。ニセゴシュユと

呼ばれていたが、これが本物(奈良県十津川村にて)。

開裂する前の未成熟果実を乾燥する

 ゴシュユは落葉性の小低木とは言うが、生長は比較的早く、挿し木で増やして植えるといつの間にか高さ5〜6mの結構大きな木になる。同じミカン科のキハダに似て、5〜9小葉から成る奇数羽状複葉を対生する。雌雄異株。

 黄柏であるキハダの主成分はベルベリンで、DOPAから作られるベンジルイソキノリン型のアルカロイドである。植物形態的にはよく似ているゴシュユの主成分はキハダとは大きく異なり、トリプトファンを生合成原料とするインドール・アルカロイドのエボジアミンで、デヒドロエボジアミン、ルテカルピンなど類似のものを数種含み、DOPA由来のものはヒゲナミンとシネフリンをわずかに認めるのみである。

 ヒゲナミンは附子の強心作用物質と同じもので、心拍を強め、血流量を増やすため、四肢の冷えを暖める働きが顕著である。シネフリンは合成化合物だったものが、最初陳皮から発見されたエピネフリン類似のアミン類で、自律神経に対していわゆるアドレナリン様作用を呈し、陳皮の気剤としての働きを代表する成分である。シネフリンが完熟果より未熟果に多く含まれる事実は呉茱萸が未熟のものを好んで使うことと符号する。

 ヒゲナミンが持続性、シネフリンが一過性の強心作用を示し、この両方が混ざっているということは、強心作用に関しては相当強力な相乗作用が期待される。薬性が大熱とされるゆえんであろう。温中、理気の作用はこれらの成分が主役である。

 ジヒドロエボジアミン、ルテカルピンなどには鎮痛作用が認められ、ラットで子宮収縮作用などが知られている。

 小毒ありとされるが、陰虚火旺のものや熱証の見られるものに与えると病状がさらに悪化するという。

 独特の強い香りはモノテルペン化合物のオシメンなどのにおいで、強い苦味はレモン果皮と同じトリテルペン系苦味質のリモニンがその原因である。とにかく、呉茱萸の入った漢方薬は強烈なにおいと苦味で名高いものばかりである。ただ、呉茱萸湯などはこの苦い臭い薬が適応する患者にはさほどこたえないというから不思議である。冷え、頭痛、胃腸障害に対応する点で共通するが、特に強い寒冷感を示す証によく適応する。

【薬効と漢方処方】

 温経湯は婦人病薬として知られるが、冷え症、更年期障害などに用いられる。足腰や下腹が冷え月経不順、不妊、湿疹、しもやけなどに特徴がある。無排卵性不妊症に用いて顕著な排卵誘発作用が認められた臨床報告がある。

 呉茱萸湯は慢性的な強い頭痛と吐き気を呈するものに対する鎮痛、鎮吐薬とされる。手足、下腹が冷え、心下膨満がみられるもの。偏頭痛、胃下垂、胃酸過多、しゃっくり、つわりで頭痛のあるものなどにも応用される。偏頭痛の薬は珍しい。

 当帰四逆加呉茱萸生姜湯は手足が著しく冷える極端な冷え症で、頭痛の激しいもの。しもやけの治療にも使われる。夏でも靴下をはかないと寝られないような人に適応する。

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