漢方とは

漢方とは、中国から伝わり、日本の風土や日本人の体質に合わせて独自に発展した「日本の伝統医学」です。
中国を起源とする伝統医学ですが、中国では中医学、韓国では韓医学、日本では漢方医学と呼ばれます。
また、「漢方=漢方薬」とイメージしがちですが、漢方には鍼灸や按摩なども含まれています。


漢方薬とは

漢方薬はいくつかの生薬を組み合わせた薬です。
たとえば、漢方薬の麻黄附子細辛湯は、生薬の麻黄(まおう)、附子(ぶし)、細辛(さいしん)から構成されています。

生薬:漢方薬の原料。自然界に存在する植物や動物、鉱物などの薬効となる部分

複数の生薬を組み合わせることで、さまざまな効果がえられ、一剤で複数の症状を改善します。



※1:附子を食塩、岩塩又は塩化カルシウム水溶液に浸漬した後、加熱又は高圧蒸気処理により加工したもの

漢方治療の特徴

漢方では、体全体のバランスを調え、体が本来備えている「自然治癒力」を高めることによって不調を治していきます。そのため、漢方薬は一人ひとりの体質(証)に合わせて処方されます。それが「オーダーメイド治療」といわれるゆえんでもあります。

証:体質や抵抗力、症状の進行度などその人の状態をあらわします。本人の訴える症状や漢方の考え方などから判別されます。



漢方の歴史

中国から日本へ伝えられたのは奈良時代。
当初は中国のやり方そのままの治療が行われていましたが、日本と中国では気候や風土、国民の体質など異なっている点もあったため、しだいに日本人に合わせた漢方医学へと発展しました。

奈良・平安時代には貴族など階級の高い限られた人だけに使われていた漢方医学ですが、室町時代以降には一般の人たちにも広がり、江戸時代には多くの医師の活躍で漢方医学も大きく発展しました。

明治時代になると、文明開化のため人々の生活もがらりと変わりました。経済力と軍事力の発展のため富国強兵策がとられ、政府により西洋医学が重視されるようになり、漢方医学は断絶の危機に瀕しました。
しかし、昭和時代にはいり戦争もようやく終わったころ、大塚敬節(おおつかけいせつ)先生や矢数道明(やかずどうめい)先生らの活躍により漢方医学が再び注目を集められるようになりました。やがて人々の目はまた漢方へと向き始め、昭和40年代には病院や薬局でも漢方薬が広く取り扱われるようになりました。



漢方の考え方

漢方治療を行うにあたり、患者さんの状態を見極めるために、漢方独特の考え方があります。

八網

患者さんの病型つまり病気の位置(病位)、病気の性質(病性)、病気の勢い(病勢)を分類し、把握するための概念です。

気血水

漢方では健康を支える要素として「気・血・水」という考え方があります。
この3つの要素が、バランスよく調っていることで私たちの体は心身ともに健康とされます。これらが不足したり、滞ったり、偏ったりすることで、不調や病気を招くと考えられています。

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五臓

自然界のあらゆるものは「木・火・土・金・水」の5つの要素に分類でき、これらは相互に助け合ったり、抑制し合ったりすることで自然界のバランスを保っているという考え方があります。
人もまた自然界の一部と捉え、この考え方をあてはめ、人体の働きを5つに分けたものが五臓「肝・心・脾・肺・腎」です。この五臓が、バランスよく整っていることで私たちの体は心身ともに健康とされます。

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漢方の診断方法

漢方が生まれたのは約二千年前。当然、その時代には聴診器や体温計、血圧計、レントゲンや検査試薬などはありませんので、五官(目・耳・鼻・口・手)を使って診察をされていました。この漢方独特の診断方法を「四診」といいます。
患者さんが訴える自覚症状や他覚症状を総合的にとらえ、その人に最も合った漢方薬を処方するために行われます。


西洋医学との違い

西洋医学は「病気を中心」とするのに対し、漢方医学は「病人を中心」とします。
西洋医学では同じ病気なら同じ薬で効果が期待できますが、漢方医学では同じ症状でも一人ひとり使われる薬が異なります。

漢方医学(漢方薬)

全身的・自覚症状

  • 一つの薬に複数の成分が含まれており、多様な症状に対して効果が期待できます。
  • 身体を総合的に捉え、全体的に治療します。
  • 患者さんの訴えや体質を重視し、体質に由来する症状や検査結果にあらわれにくい症状の治療を得意とします。

西洋医学(西洋薬)

局所的・検査所見

  • 薬は主に単一成分で構成されており、血圧を下げる、熱をとるなど一つの症状や病気に対して、強い効果をもちます。
  • 身体を細分化して、局所的に治療します。
  • 血液検査などの客観的要素から、検査結果などの数値にあらわれるような病気の治療を得意とします。

漢方が得意とする症状

  • 虚弱体質(体力がなく疲れやすいなど)
  • 加齢による症状(腰痛や忘れっぽいなど)
  • 胃腸症状(胃もたれや食欲不振、便秘など)
  • 精神症状(イライラ、不眠、うつなど)
  • 婦人科系の症状(生理痛や不妊、更年期障害など)