釣藤散 (ちょうとうさん)



【処方コンセプト】起床時やイライラした時に、血圧が高くなる方。

釣藤散は、高血圧症・動脈硬化症で頭痛、ふらつき、手足のふるえ、不眠などに用いる処方である。イライラなどの「肝陽上亢」の証に、起床時の頭痛など「痰飲」の証を呈するものによい。従って、起床時やイライラした時に、血圧が高くなる方の頭痛や神経症に用いる

釣藤散適応症

◆原典の『普済本事方』には「肝厥頭暈(肝に邪気が盛んで気の上逆のために起こったふらつきや目眩、神経症)するを治す。頭目を清す(のぼせや目の充血をとる)」とある。

◆肝陽上亢(肝の陽気が制御できず、上に昇る)および肝風内動(肝の気が過剰に動く)に対する代表処方であり、それらによるイライラ、易怒性、のぼせ、頭痛、不眠、痙攣などに用いられる。さらに脾虚により痰飲が生じ、それが肝陽上亢に乗って頭部に達することで様々な症状(めまい、頭痛、耳鳴り、健忘、不眠など)を現すものにもよい。

◆大塚敬節先生は釣藤散が有効な頭痛について、「朝の起床時には強く、その後は次第に軽くなる傾向がある」と述べている。

◆細野史郎先生は、「婦人の更年期や、虚弱者の慢性腎炎、脳動脈硬化の時の頭痛、めまい、肩こりによい。また、頭痛は朝の起床時や休息時に現れ、頭痛とともに易怒性、のぼせ、頭重感、耳鳴り、不眠などの神経症状が強く、また心下部のつかえ、食欲不振などの消化器症状が見られる。」と述べられている。

◆脳血管性認知症において、釣藤散は自覚症状・精神症状・日常生活動作障害に対して有意な改善が認められたという研究報告がある。

【処方構成】11味

釣藤鈎(チョウトウコウ)は、肝陽上亢や肝風内動を鎮め、鎮静・鎮痙(痙攣を止める)・降圧作用を示す。菊花(キクカ)は釣藤鈎の作用を助け、さらに目の充血・かすみなどの眼症状を改善する。石膏(セッコウ)は体内の熱を冷まし、また釣藤鈎・菊花の作用を助ける。半夏(ハンゲ)・陳皮(チンピ)・茯苓(ブクリョウ)・甘草(カンゾウ)・生姜(ショウキョウ)は二陳湯の構成で、体内の痰飲を解消する。人参(ニンジン)・茯苓・甘草は補気健脾の働きがあり、痰飲生成の原因となる脾虚を改善する。防風(ボウフウ)は祛風作用により頭痛を止め、鎮痙にも働く。麦門冬(バクモンドウ)は他薬の燥性(体を乾燥させる性質)を和らげる働きがあり、処方全体のバランスを整えている。

釣藤散生薬構成
理気 利水 補養 解表 清熱 駆瘀血 配合生薬数
陳皮 枳実 半夏 茯苓 白朮 蒼朮 独活 人参 麦門冬 甘草 防風 生姜 羗活 白芷 細辛 柴胡 薄荷 菊花 蔓荊子 釣藤鈎 石膏 竹筎 山梔子 黄芩 当帰 川芎 牡丹皮 芍薬
釣藤散 11
 抑肝散加陳皮半夏  9
温胆湯 7
加味逍遙散 10
清上蠲痛湯 14
処方名 類方鑑別
釣藤散 イライラ、めまい、頭痛、肩こりなどに用いる。高血圧傾向を伴ったり、のぼせなどの熱症状を
伴ったりすることが多い。
抑肝散加陳皮半夏 イライラ、めまい、頭痛などに用いるが、熱症状はあまり伴わない。
温胆湯 不安で物事が決断できず、不眠が生じる。イライラ傾向は少ない。精神症状が消化器の不調を引き起こしている。
加味逍遙散 イライラ、頭痛などに用いるが、瘀血傾向があり、不定愁訴が多いものによい。
のぼせなどの熱症状を伴う。
清上蠲痛湯 頭痛全般に用いるが、肩こりなどはなく、あまり虚していない場合によい。精神症状はあまり伴わない。


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