九味檳榔湯 (くみびんろうとう)



【処方コンセプト】下肢のだるさ、疲労倦怠感が強い方に。

脚気(カッケ:ビタミンB1欠乏症)で浮腫があり、息切れする方に用いる。現在は栄養状態がよくなり、脚気はほとんどなくなったが、食生活の偏りで脚気様症候群はみられる。そのようなタイプにもよく使われる。

九味檳榔湯適応症


◆出典の『勿誤薬室方函口訣』には、「脚気腫満(シュマン:水毒で手足や腹がはれる)し、短気(タンキ:息切れ)す、及び心腹痞積(ヒシャク:つかえて滞る)し、気血凝滞する者を治す。 (後略)」とある。※脚気:現代医学でいう脚気とは限らない。脚が軟弱でむくむ病(湿脚気)。

◆かつては脚気(ビタミンB1欠乏症)やその主症状である足のむくみ・痛み、動悸、息切れなどによく使われた。栄養状態がよくなった現在でも、隠れ脚気様患者(インスタント食品やスナック菓子などの摂り過ぎで栄養バランスが乱れた方)が多く存在する。起床時に顔やまぶたがはれ、あるいは下肢がむくんで、倦怠感がある。仕事が終わって帰宅すると足がむくんでいる方などは、ぜひ試してください。

◆本方はほとんどが理気薬(気を巡らせる生薬)から構成されており、胃腸や胸部の気滞(気の停滞)に応用される。心下部の痞え、腹部膨満、便秘や動悸、息切れなどの症状を改善する。特に、脚気衝心といわれる病態では心の機能が低下し、浮腫とうっ血で呼吸困難を起こすことがある。

◆水毒体質で、下半身(特におしりや太もも)がむくみ、だるいなどを訴える水太りの肥満にも応用される。また、フクラハギがはり、こむら返りで痛みを訴える方にも効果がある(急性期には芍薬甘草湯がよい)。

【処方構成】11味

本方の主薬は檳榔子(ビンロウジ)と大黄(ダイオウ)で、この両薬で瀉下・逐水(排便により余分な水分を排出)の働きを発揮し水毒を改善する。また、本方の構成は、大半が理気薬からなり、体表や体の上部は桂皮(ケイヒ)・蘇葉(ソヨウ)・生姜(ショウキョウ)が、 腹部は、檳榔子・橘皮(キッピ)・呉茱萸(ゴシュユ)・茯苓(ブクリョウ)・甘草(カンゾウ)が、下半身は木香(モッコウ)・厚朴(コウボク)・大黄で気を巡らす。それぞれの部位の浮腫や気滞を取り除き、水分代謝を円滑に進めることが出来る。本方は理気・利水の代表処方である。

生薬構成

  解表 補気 利水 理気 その他 配合生薬数

蘇葉 生姜 甘草 人参 黄耆 大棗 白朮 茯苓 沢瀉 蒼朮 猪苓 灯心草 防已 呉茱萸 大腹皮 枳実 橘皮 厚朴 縮砂 香附子 檳榔子 木香 麦門冬 大黄 黄芩
  九味檳榔湯                                 11
  防已黄耆湯                                           6
  分消湯                   陳皮         14
  補気建中湯                           陳皮           9

処方名 類方鑑別
九味檳榔湯 全身が重だるく、特に下肢や関節がむくんだり、痛む方に。
半夏厚朴湯 ノドや胸がつかえ、吐き気やめまいなども訴える神経質な方に。
防已黄耆湯 汗かきで、風邪をひきやすい、体が重だるい水太りの方に。
分消湯 元気の残っている方で、腹部に膨満感や浮腫を訴える方に。
補気建中湯 元気がない方で、腹部に膨満感や浮腫を訴える方に。


▲ このページのトップへ