漢方薬ってなんだろう

漢方と漢方薬

漢方講座
漢方と漢方薬

 「漢方」とは、中国から日本に伝えられた中国伝統医学の日本での呼び方です。奈良時代に日本へ伝えられた中国医学は日本の風土に合わせて独自で発展し、「漢方」と呼ばれるようになりました。漢方医学と言えば「漢方薬」が有名ですが、鍼(はり)や灸(きゅう)で治療を行う「鍼灸(しんきゅう)」も漢方医学のひとつです。漢方医学で使用する薬が漢方薬です。漢方薬が生まれた時代には、薬として使用できるのは「生薬(しょうやく)」と呼ばれる自然の資源のみで、草、木の皮や根、実、種、動物の体の一部や貝殻、石(化石)などを使う知識が発達しました。

漢方薬は、漢方医学の考え方にもとづいてこれらの生薬を組み合わせたもので、「傷寒論(しょうかんろん)」や「金匱要略(きんきようりゃく)など漢方薬の古典(古い時代の本)に紹介されているものを、特に「漢方薬」と呼んでよいと決めています。ドクダミやゲンノショウコなど、健康茶などとして親しまれている薬草は「民間薬(みんかんやく)」と呼び、漢方薬とは区別しています。

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中国での漢方薬の歴史

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 中国伝統医学の考え方は漢の時代(紀元前)、「黄帝内経(こうていだいけい)」という中国最古の医学書にまとめられました。また、生薬の効果などをまとめた本が「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」です。本の名前にもなっている「神農(しんのう)」とは伝説上の薬の神様で、1日に 100種類の草や木を なめ、その効果を分類したとされています。たくさんの薬をなめたので、時には毒にあたり苦しんだという伝説もあります。

中国での漢方薬の歴史

続いてできあがったのが漢方薬の本である「傷寒論(しょうかんろん)」と「金匱要略(きんきようりゃく)」です。ここで紹介されている処方(漢方薬)は現在でも非常に多くのものが使われています。この後、時代の流れと共に新しい処方が生まれ、多くの医師が活躍しました。

 一時的に伝統医学が衰退した時期もありましたが、1960年代後半から起きた文化大革命の後、伝統医学が再び注目を集め、古い書物や伝統的な考え方を国をあげて整理して「中医学(ちゅういがく)」と呼ばれる学問が作られました。

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日本での漢方薬の歴史

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日本での漢方薬の歴史

 日本に中国医学が伝わったのは奈良時代のこと、仏教を広めるため、失明しながらも日本への渡航に挑戦した鑑真が薬草の知識を伝えました。また鑑真は、日本にあった生薬の鑑定(かんてい)や使い方の指導も行いました。当初は中国のやり方そのままの治療が行われていましたが、日本と中国では気候や風土、国民の体質など異なっている点もあったため、しだいに日本人に合わせた漢方医学へと発展しました。

 奈良・平安時代には貴族など階級の高い限られた人だけに使われていた漢方医学ですが、室町時代以降には一般の人たちにも広がり、江戸時代には多くの医師の活躍で漢方医学も大きく発展しました。特に、江戸時代中期に吉益南涯(よしますなんがい)が発表した「気血水理論(きけつすいりろん)」という考え方は現在の日本漢方の考え方の基礎となりました。江戸時代の末期には西洋医学も伝えられ、紀州(和歌山県)の医師である華岡青洲(はなおかせいしゅう)は、生薬から開発した全身麻酔薬で乳がんの手術を行っています。

 明治時代に入ると、文明開化のため人々の生活もがらりと変わりました。国は経済力と軍事力の発展のため富国強兵策をとり、一度にたくさんの人の治療や病気予防、戦場でのケガの手術ができない漢方医学を排除しようとし、漢方医の数はすっかり減ってしまいます。しかし、昭和に入り長かった戦争もようやく終わったころ、大塚敬節(おおつかけいせつ)や矢数道明(やかずどうめい)らの活躍で漢方医学も少しずつ復活してきました。やがて人々の目はまた漢方へと向き始め、昭和40年代には病院や薬局でも漢方薬が広く取り扱われるようになりました。

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漢方薬の特徴

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 漢方薬は、ひとつの薬でもさまざまな症状に使うことができます。それは、病気の背景となっている体のバランスの悪さを改善するのが、漢方医学の基本的な考え方だからです。

 たとえば、体内に水が余った状態(水毒(すいどく)などと表現)になると、手足や顔のむくみ、頭痛が起こります。症状の原因は余った水なので、それを尿として出す漢方薬を使用すると、むくみも頭痛も改善することができます。このように、ひとつの漢方薬でもいろいろな症状を改善することができ、逆に同じ症状でもその原因に応じてさまざまな種類の処方が使用されます。

 また、検査のデータなどで異常が見つからないのに苦しい症状がある場合や、慢性の疾患(アトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症など)に漢方薬が効果を発揮することや、西洋医学の薬品だけでは取り除けない苦しみを漢方薬が解決するケースもあります。抗がん剤など効きめの強い薬を用いた時はつらい副作用が出る場合もありますが、そのような症状を少しでも楽にするために漢方薬が用いられることもあります。

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漢方薬の剤形(くすりの形)

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 現在では粉薬や錠剤で服用されることが多い漢方薬ですが、漢方薬はもともと「湯剤(とうざい)」「散剤(さんざい)」「丸剤(がんざい)」などの剤形(くすりの形)で服用されていました。もちろん現在も使われています。


漢方薬の剤形

■湯剤(とうざい): 刻んだ生薬を混ぜたものを煮出して(煎じて)、生薬カスを取り除いた液を飲む薬(煎じ薬)。葛根湯(かっこんとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など。

■散剤(さんざい):生薬をすりつぶし粉を混ぜ、そのまま服用する粉の薬。香りを大切にする処方や吐き気どめなどに多い。五苓散(ごれいさん)、香蘇散(こうそさん)など。

■丸剤(がんざい):生薬の粉をハチミツと練り合わせ小さな丸い玉にした粒の薬。持ち運びに便利。八味丸(はちみがん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)など

 湯剤などの優れた点は、患者さんの体調に応じて生薬を足したり引いたりして効き目を調節できることです。しかし、薬の準備には時間がかかり持ち運びも大変です。そこで、漢方薬を簡単に服用できるよう登場したのが生薬の煮汁を飲みやすく加工して作られた「エキス剤」と呼ばれる粉や錠剤の薬です。漢方薬をより簡便に服用できるエキス剤の登場は、漢方薬の普及に大きく貢献しました。


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漢方薬の名前のしくみ

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漢方薬の名前にはきちんと由来があり、一定の法則のもとで命名されています。

■含まれている生薬によるもの

葛根湯(かっこんとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

 :メインとなる生薬(1つまたは2つ)をつけた名前

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)

:含まれている全ての生薬の頭文字をとった名前。

■入っている生薬の数によるもの

五苓散(ごれいさん)、八味丸(はちみがん)、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)

 :含まれる生薬の数からつけられた名前。

■薬の効果を表すもの

大建中湯(だいけんちゅうとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

 :「中」とはお腹という意味で「お腹を建て直す薬」、「お腹を補う薬」という意味の名前になっています。

これらの法則以外にも、漢方処方の名前の由来にはいろいろなものがあります。「漢方薬は漢字ばかりでとても覚えられない!」と考えがちですが、由来が分かればすぐに覚えることができます。

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漢方医学の考え方

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 漢方医学では、個人の体質や体のバランスを重視して診断を行うことを大切にしています。その考え方には「虚実(きょじつ)」や「五臓(ごぞう)」、「気血水理論(きけつすいりろん)」などが用いられ、「病気の進行具合」も参考にします。

虚実を考える

漢方医学の考え方

 漢方では、体質や体の具合を「虚(きょ)」「実(じつ)」の二つに分けて考えることがよくあります。

 「実」とは、充実している状態を指し、体力のある人を「実証(じっしょう)」と表現します。元気があるのはよいことですが、体に悪いものが充満していたり、体の働きが暴走することもあり注意が必要です。逆に「虚」とは働きが低下している状態で、体力のない人を「虚証(きょしょう)」と表現したり、臓器の働きが低下している状態を「腎虚(じんきょ)」「脾虚(ひきょ)」などと呼んだりします。

五臓の働きを考える

「五行説(ごぎょうせつ)」という中国医学の基礎となる考え方では、5つのグループに分けられた自然界のあらゆるものが、助け合ったり暴走を止めたりして自然界のバランスをとっていると考えています。生活に欠かせないのに火がありますが、木をこすると火がつき、燃えすぎて危ない場合には水をかけて火を消します。火と上手に付き合うには木と水をバランスよく使うことが大切です。

 「肝(かん)」「心(しん)」「脾(ひ)」「肺(はい)」「腎(じん)」の5つの臓器を漢方では「五臓(ごぞう)」と呼んでいます。五臓も、それぞれの臓器が活発に働くように応援したり、どこかが働きすぎならばそれを食い止めたり、木・火・水と同じようにバランスをとって体全体が元気に動くよう調節しています。五臓のひとつひとつはそれぞれ、次のような働きをもっています。

■肝:毒を処理する、心のバランスを保つ、血をたくわえる。

■心:血液を運ぶ、心のバランスを保つ

■脾:食べ物の消化と栄養の吸収、水分を体じゅうに運ぶ

■肺:呼吸、水分を体じゅうに運ぶ

■腎:排尿を調節する、足腰を強くする、体の成長・老化に関わる

これらの働きを「虚実」の考えに当てはめ、元気がない臓器や働きすぎの臓器に適した治療を行います。

五行説

気血水の働きを考える

 人間の体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」の3つの要素で成り立ち、これらが一緒に働いて体を動かしているという考え方が「気血水理論(きけつすいりろん)」です。それぞれの働きは次のようになっています。

■気:体を動かすエネルギー。気が体全体をくまなくなめらかにめぐっていれば、
体や臓器も元気に働きます。

■血:体内で栄養などを運ぶ働きをしています。

■水:体内の水分です。

気や血の働きが悪くなると元気がなくなります。オナラやゲップは気のめぐりの悪さが原因です。気血水が偏りなく流れていれば、体は元気に働きます。気血水の量や流れ、働き具合が悪い時は、バランスを整えるような治療が必要です。

病気の進行具合を考える

病気の進行具合を考える

 風邪をひいた時には、肩や背中の痛みや寒気、 発熱があり、しばらくしてからお腹の具合が悪くなったり、長引くといつまでもだるさが残ったり、いろいろな症状があらわれますが、これは病気のステージが変化しているからです。漢方ではタイミングよくステージに合った治療を行うことを非常に大切に考えています。ステージに合っていない治療を行うと、余計に体の具合が悪くなったり体に悪い作用を及ぼすこともあるので注意が必要です。

以上のように、さまざまな角度から症状や体質を考え、ひとりひとりに適した治療を選んでいくのが漢方治療の基本です。また、漢方には上で紹介したもの以外にもいろいろな考え方があります。くわしく書いてある本を読んで勉強してみるのもおもしろいですよ。

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漢方医学の診断方法

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 漢方医学では、その考え方に基づいて、どのような漢方薬を服用するのが適しているかという診断を行います。その診断方法にもいろいろありますが、病院や医院では「望診(ぼうしん)」「聞診(ぶんしん)」「問診(もんしん)」「切診(せっしん)」を合わせた「四診(ししん)」という診断方法がよく用いられています。

望診(ぼうしん)

 患者さんの様子を目で見ます。元気があるか、表情が暗くないか、皮膚につやがあるかなどを観察します。また、「舌診(ぜっしん)」という診断方法では、舌の形や色、舌苔(ぜったい。舌についているコケのような白っぽいもの)から体力の有無、血や水の偏りなどを判断しています。

聞診(ぶんしん)

 耳で聞いたり匂いをかいだりします。声の大きさや咳の音、胃の中に水がたまってぽちゃぽちゃと音がしていないか聞いています。体や口のにおいをかいだりもします。

問診(もんしん)

 患者さんに質問をします。体の調子の悪いところ、どのような症状か、また悩みごとや 困りごとはないか、などいろいろな事を聞きます。悩みごとから体調が悪くなっている場 合もあり、症状の原因を探す手がかりになります。

切診(せっしん)

 患者さんの脈やお腹に触ります。手首の脈に触る「脈診(みゃくしん)」では、手首の脈を強く押さえたり軽く触れたりしながら、脈の強弱や速さなどを調べます。また「腹診(ふくしん)」では、お腹を手で押さえながら、固いところや痛いところはないか、などを調べます。

 漢方が生まれた時代には精密な検査やレントゲンなどはなかったので、患者さんの感じている症状や、医師が患者さんを観察して得られた結果だけが病気を知るための手がかりでした。これらの結果を漢方医学の考え方と照らし合わせ、患者さんの体全体にどのようなことが起こっているのか、また体調の悪さの原因は何であるのかを考え、それを解決できる漢方薬を選びます。必要に応じて2種類以上の漢方薬を使ったり、鍼(はり)や灸(きゅう)による治療鍼灸(しんきゅう)などを取り入れることもあります。また西洋医学の薬を併用する場合もあります。

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よく使われる漢方薬

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漢方薬には数えきれない程の種類がありますが、中でも有名なものを紹介します。

■葛根湯(かっこんとう)

風邪のひきはじめ(症状が出て2、3日程度)に使われます。
この他にも頭痛や肩こりにも効果があります。

■小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

風邪やアレルギー症状による鼻水によく使われます。この漢方薬は特に、薄くてさらさらした薄い鼻水の出る人に用いられ、同じような痰が出る咳や喘息にも使用します。

■補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

体に元気をつける生薬がたくさん含まれている漢方薬で、もともと体力のない人や病気の後で体力が低下している場合に使用されます。

■八味丸(はちみがん)

八味地黄丸ともいいます。年をとってきた時の腰痛や排尿障害(尿がきちんと出ない症状)、目の症状などに用いられます。体を温めるので、冷え症にも使用できます。

■五苓散(ごれいさん)

体に水が余分にたまっている状態(水毒などと表現します)を改善する漢方薬で、むくみや下痢、吐き気などに使用されます。

■黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

体の余分な熱を取り除く生薬でできていて、のぼせや高血圧による症状に使用します。炎症を除く作用もあり、皮膚炎に用いられることもあります。

■加味逍遙散(かみしょうようさん)

女性の更年期障害(こうねんきしょうがい)などに使用されます。のぼせや発汗、イライラなどのさまざまな症状(不定愁訴(ふていしゅうそ))がある時に使用されます。

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漢方薬の飲み方

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 「漢方薬は長く飲まないと効果がない」と思われがちですが、2、3日の間や症状のある時だけ服用しても効果があるような、早く効く薬も多くあります。漢方薬は1日2〜3回服用しますが、1日1回でよい場合もあります。
 また、体調や病気のステージに合っていない漢方薬を服用すると、かえって体調が悪化する場合もあります。漢方薬は必ず、専門知識を持っている医師や薬剤師の指示を守って、 適切に服用するようにしましょう。

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おわりに

漢方講座

 漢方医学は長い時代を経て受け継がれてきた歴史のある医学です。世の中から消えそうになったこともありましたが、ほとんど変わらない形で何千年も伝えられているというのは驚くべきことです。現在では治療の難しい病気に漢方を応用したり、漢方の効果を科学的な目で分析する研究なども広く行われています。漢方医学は時代の流れと共に、これからも発展を続けていくでしょう。

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【参考文献】
日本東洋医学会学術教育委員会編 「入門漢方医学」
寺沢捷年著 「症例から学ぶ和漢診療学」 医学書院
森雄材著 「図説 漢方処方の構成と適用」 医歯薬出版
山田光胤、代田文彦著 「図説 東洋医学(基礎編)」 学研
谿忠人著 「現代医療と漢方薬」 医薬ジャーナル社
丁宗鐵著 「漢方実用全書」 池田書店